不死鳥
オーディトリウムで開催中の木下恵介特集の1本目、「不死鳥」に行って参りました。てっきり1本1500円だと思ってて、だったら3本3000円の回数券を買うかなーと思ってたんだけど、当日1300円だったので、行けるかどうかわからない3本目はあきらめてバラ売りで入りましたです。あと1本、「カルメン」は見たいんだけど、平日は夜の回もむりむりだし、ビミョーに時間が合わないんだよなあ。
つことで「不死鳥」。1947年の映画です。主演は田中絹代と佐田啓二。佐田啓二、これがデビュー作なんだなあ。既に堂々たるスターっぷりですよ。器が違うわー。
舞台は鎌倉か大磯辺りの海岸の近いお屋敷。「戦争未亡人」の小夜子(田中絹代)は、4歳のケン坊を片手に、たくさんいる義理の弟妹の面倒をみつつ、「長男の嫁」として大忙し。そんな中、義弟のユウジが婚約するのをきっかけに、一高生だった夫の慎一(佐田啓二)との出会いから、慎一の父の猛反対、小夜子の父の死と家の没落、慎一の召集、軽井沢への疎開と弟の病死、ようやくかなった慎一との短い結婚などを思いだすのであった。
……なんか身もふたもないあらすじだな。田中絹代はすでに30代後半。女学生はちょっとツラくなくもない。「美人」というよりも(今基準で見れば)「愛されやすい」顔立ちかもしれないなあ。佐田啓二は中井貴一よりも郷ひろみテイスト。眉毛の整え方だろうか。役柄が「情熱系」だからだろうか。小夜子の弟の弘は「病弱で泣き虫」のはずなのに、黒沢昭二が妙にゴツい顔立ちでキャラ違いに見えるんだけど、これは当時との感覚の違いなのかなー。
タイトルの「不死鳥」は、映画の中でそれとは示されないけれど、自分が結婚して相手が家に入ったら小夜子がいづらくなるのではないかと気遣う、「事実上の長男」になってしまったユウジに向かって、「あなたたちがどんなに甘い新婚生活を見せつけても、私たちほど愛し合えませんわ、うふふー♪」っていう小夜子のことなんでしょうな。結婚が自分たちの一生の「意味」になってしまうのは、当時の「上流のお嬢様」の価値観ですが、「もう少しケン坊が大きくなったら、資金を出してもらって[洋裁の]店を持って自立したい」というあたりはなかなかしたたか。なんといっても、6年間の「清い交際」(←久しぶりに聞いたよ!)ですからねぃ。結婚せずには、あんなこともこんなことも……なわけで。
いやいやいや。真一が外地に行くまでの1週間の休暇中に結婚しようというのに、わざわざ疎開先の軽井沢まできて反対する父親に向かってぶちキレたときの小夜子は、最高に美しかったですよ。そしてそんな父も、ケン坊が石を投げてガラスを割った時は大声で叱るのに、出勤しようと(←多分社長さん)家を出るときに「おじいちゃんのこと、嫌いか……?」ってしょんぼり聞いちゃったりして。孫、最強。
で、二人を終始応援する真一の弟のユウジは、本当は義姉さんのことを憎からず思ってたんだろうなー、とも思ったりして。けれど、小夜子の心が真一から離れることは決してないということを一番知っていたのも(当事者と死んだ弘以外では)彼なので、周囲から「小夜子の再婚相手に」(←戦前は兄/姉が死んだら弟/妹が後添えというのは割にある)との話があったのも断っちゃって。
それにしても、ブルジョアすげぇなー( ̄▽ ̄)。二人の家がともに、絵に描いたようなブルジョアっぷりですよ。あんだけの家の長男なら、外地なんていかなくてすみそうなもんだけど、そこはやっぱりお華族様とは一段違うってことなんでしょうな。父親の機嫌がいいときは、上の娘がピアノを弾いて兄弟で合唱とか。トラップ一家か。「今日は君のショパンが聴きたくて来たんだ」とか。きゃあー。しかもヒロインの父が急死して、多額の借金が明らかになって、親切ぶった叔父夫婦が無理な縁談を強いるとか、もう本当にブルジョアだよなー。そんな小夜子の疎開先の軽井沢の家がまた超モダンでびっくり。もっとも、内職の洋裁に、畑仕事に、代用教員にと、小夜子自身は大忙しですが(そして「勝負髪」が、サザエさんを彷彿とさせるアレだ……。弘が「前はもっと髪もたくさんカールさせてたのに……」って言うシーンがあったけど、アレ、当時の「おしゃれ髪型」なんだなあ)。
敗戦から2年後の映画ですが、「手柄なんて立てなくていい、立派な働きなんかしなくていいから生きて帰ってくるって約束して」という小夜子、「僕たちだけじゃない、世界中の恋人たちが戦争によって別れさせられるんだ」という真一、そして戦場の場面は出ないけれど、何度も挿入される「出征兵士を送る行列」の光景は、今とは段違いに生々しく人々の目と心に映ったであろうなあ、と。
詳しいあらすじはこちら。「詳しいあらすじ」ってのも変な日本語だな。
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