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2014/05/29

拝啓天皇……

 続きです。

 さて、そのかんにもいろいろと軍隊の軍隊たるエピソードはいろいろにあるのですが、それはさておき。

 ヤマショーもムネさんも同じ部隊で中国に出征することになりますが(しかしヤマショーは一等兵だけどムネさんはいつの間にか伍長なんだよな)。その前に、というよりも最初にヤマショーたちが満期除隊になる前に、加藤嘉の中隊長は朝鮮に転属になり、その後中国で戦死することになりますが。ヤマショーにとって中隊長は、酔っ払って重営倉入りになった自分に付き合って正座をし、読み書きの苦手な自分のために初年兵を先生につけて授業のために中隊長室を解放してくれ、除隊後のために就職や着物の世話までしてくれた、いわば恩人なんですな。「畏れ多くも(ビシーッ!)」の中隊長。天覧演習で大コーフンだった中隊長。

 二人の部隊は中国で行軍中、戦闘の終わった地域で小休止をします。ヤマショーなんかまだことの大変さがわかってないから、たき火してる友軍のところにホイホイ行って、煙草の火を借りようとするのね。するとたき火してる兵隊が「ああ、今腕燃してるから」っていう。見ると本当に片腕燃してるわけですよ。身体の方は近くに埋めてあって、腹やられてね、って。腹やられたら即死だね、っていうと、いや3時間くらい生きてたよ、て。ヤマショーもそこでやめておけばよいのに、3時間もあったら「天皇陛下万歳」って言えたね(←正確に覚えてない……orz)、とくるもんだから、そんなこと言うかよ、となり、3時間もあるのに「天皇陛下万歳」もよう言えんヤロウはヘナチョコじゃい、うちの中隊長なんか頭撃たれたのに3回も「天皇陛下万歳」って言ったみたいなわけわかんないことを言いだし(←正確に覚えてない……orz)、つかみ合いの大げんかになりかけるのを、結局やっぱりムネさんが回収するという(←伍長なので相手の兵もあまり逆らわないですむ)。

 ヤマショーの中では天皇と中隊長がどこかでリンクしちゃってるんだろうなあ、と思うんですよ。何しろ「中隊長の言葉は、畏れ多くも(ビシーッ!)、天皇陛下のオコトバ」でありますし。
 3度目に召集されたヤマショーは、中隊長戦死の地で墓の前にたたずみます。広い原野に杭のような墓標が立ち並ぶその場面は、きれいなんだよなあ。良くも悪くもきれいに撮れてるんだ。父親を知らないヤマショーは、中隊長をどこか父親的に思っていたのかもしれないなあ。

 復員して、ムネさんと再会して、ケンカして、また仲直りして、失恋して、婚約して。戦後のヤマショーの生活に「天皇」は関係なかったかのように思えるけれども。

 結婚式を数日後に控えた夜。千住でいつものように大酒を飲んで泥酔したヤマショーは、千鳥足で歩きながら、女性連れの進駐軍兵士と行き会います。ぶつかったっけかな、どうしたっけかな。なんでい、天皇陛下バンザーイ。舌もうまくは回らないヤマショーはそれからまもなく、トラックにはねられて世を去ります。
 軍服に一瞬、軍隊時代を思い出したか。女性連れの米兵に「国辱」でも感じたのか。まさしく「天皇陛下万歳と唱えて死んだ」ヤマショーは、入隊当時は「赤子」の意味もわからずに叱られておったのに。

 「拝啓天皇陛下様 陛下よあなたの最後のひとりの赤子がこの夜戦死をいたしました」

 最後の言葉はムネさんの、無念のつぶやきであるように思えます。

 なんといいますか。

 なにかものすごく「がらんどう」なんですね。「天皇」というものが。「空虚」よりももっとからっぽな、からっぽというよりもなんというか、果てしなく「がらんどう」な感じ。強いて言えば、中身のない西洋鎧のような。叩けば響いて音がする、というよりも、その音すらも中に吸い込んでしまうような、そういう「がらんどう」。むなしさよりも、絶望から諦念に移行してしまった、そんなどうしようもない「がらんどう」なものが「天皇」であったと。ヤマショーの「万歳」もムネさんの無念もただ宙に消えるばかりで、ぢぶんはひたすら切ない気持ちになったのでありました。

 あと1回で終わります。

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