暁の脱走その2
で。
春美らの慰問団というのは、女性ばかり5人のグループに興行師的なおっさんが1人ついてるんだけど、その女性のリーダーが利根はるゑ。気っぷのいい姉御で、個人的にはこちらの方が好みなんだけども(笑)。トラック移動の途中で敵襲に会い、部隊に引き返した彼女ら一行は改装中のホールの二階を宿舎としてあてがわれるんだけど、「好きな部屋を取りな」という興行師に対して彼女は最初にしつこく念をおすんですよね。「自分たちはここで何をするのか」と。つまりそれは慰安婦にするつもりじゃないのかということに対してものすごい警戒心を持ってる。元々この駐屯地の近辺には慰安所がない、という設定が先に説明されているわけでね。でもまあ案の定、興行師が春美を副官にアッセンしようとして、逆に三上にちかづけてしまうことになるんですが。
しかしだな。三上は春美の誘惑に負けて一夜を共にするわけだが、それ以前も以降も「上官に背いてまで春美を愛してる」風には全然見えないんですな。まあ、中国軍の病院では献身的に世話を焼いているので、それ以降はその恩義みたいなものは感じているというか、いわば亭主風にふるまうこともないではないんだけど、それでも春美よりも「生きて虜囚の云々」だとか、副官に対する信頼の方が勝っているわけですよ。
なんだかなあ。春美は「愛する人は自分で決める」という意味においても、相手を破滅させるファムファタルであるという点においても「カルメン」的であるし、むしろその堅物さにおいて三上はホセを思わせるんだけども……。どうにも三上の方に愛情を感じないんだよなあ。池部良が悪いというよりも、ぐるぐるあちこち見るに「春婦伝」の段階でそうらしい(←昔読んだのに忘れちゃってるぢぶん……)。なので、最後まで春美の空回りに見えるというか。
つか、春美の「自由さ」というか「奔放さ」というかは、つまり「一途」を通り越してすごく頭が悪いとしか思えないんだよなあ……。今そんなことしたら三上の立場が悪くなるだけじゃん? 的な言動が次から次へと繰り出されるので、文字通り三上を「破滅させる」女になっているという、笑っていいのかいけないのかわからん状況に。「手榴弾持ってこい」って言われたら、自決くらい疑えよーーヽ(`Д´)ノウワァァァン。頭悪すぎるだろうよう。
戦友達は三上にたいへん同情的で、調書作成担当の兵は、尋問が終わって上官がいなくなるや否や、三上の胸ぐらつかまんばかりに「なんで本当のことを言わないんだーー!!」と怒鳴るし、営倉の見張り番たちは先述の通りだし、城壁の外で副官に狙撃を命じられた兵たちは、最初は撃てないし、副官の剣幕で撃ち始めても全然狙ってないし、副官が自ら掃射を始めたときには、副官を射殺しようとする戦友までいたわけですよ。でもそれはむしろ、日頃の三上の生真面目さをはじめとする彼自身への同情と友情であって、「二人」を応援していたわけでもないように思えるんだよなあ……。
というわけで、「悲恋のメロドラマ」という気持ちはあまりしなかったな。副官の横暴さと「部隊のメンツ」に対する男の友情の物語というか。
今回の特集上映での併映は「独立機関銃隊未だ射撃中」だったんですが、この2本の共通点といえば「捕虜」問題だと思うんですね。「生きて虜囚の……」をどこまでやるか。「暁の脱走」も、むしろ「生きて帰ってきた捕虜」の扱いをめぐる理不尽さこそがテーマのような気もするわけで。中国軍の将校が、「日本軍が捕虜になることを許さないのは非人道的である」という趣旨の話をする場面がありますが、「独立機関銃……」も最後はそこが論点になる。その意味では面白い取り合わせであったな、と。
山口淑子名義での出演ではありますが、李香蘭の映画を初めて見た、というのも付け加えておいたりして。慰問団で「荒城の月」を歌う場面がありましたよ。
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