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2014/08/24

独立機関銃隊未だ射撃中 その2

 2本立てで見てるのに、1本書くのに2日使ってりゃ追いつくわけがないという……orz。

 「密室の群像劇」ともいえるもので、構成自体は非常に演劇的だと思いました。ただ、最後のトーチカが陥落する場面(特に火炎放射器の恐ろしさ)は、演劇では無理だろうなあと思いますが。場面も、白井の配属からトーチカ陥落まで、ほぼトーチカの中だけですしね。例外的に、戦車への攻撃に出た班長と渡辺のシーンがあるだけで。人の出入りはあるから「密室」とは言えないんだけど、トーチカという舞台がそう見せる、という。

 最初は白井が主人公のように思えるんですが、だんだんにウェイトが分散していって、最終的には原が主人公だったように思えてくる。この原(太刀川寛)が、ちょっと面長の眼鏡で、見るからに水木しげるの戦記物に出てくるような「日本兵」で。で、最初っから班長に「ビビビビビビ!」ってビンタを受ける。これは、重機関銃の操作演習中に、きちんと目標に照準が合ってないのに「合った」と嘘をついたのがばれたからなんだけど、原がその時に見ていたのが花(多分スカシユリの類い)の群落なんですね。で、ラストシーンで、その花が砲撃に耐えて一輪だけ咲いてるのに、手を伸ばすんです。

 原は「学徒兵」らしく、ちょっと要領も悪いし、ちょっとインテリっぽくふるまってしまうところもあって、それがほかの3人には鼻につくのだけど、実際にいちばん「戦友」にこだわって大事にしてるのも原だったりするんですね。錯乱する金子をかばうのも、小隊長に、金子は「立派に死んだか」と問われて口ごもる班長に変わって「立派な戦死でした」と答えるのも原。たき付け用の紙がコンサイスの辞書だったことに気づいて目を細めて嬉しそうにそれを眺めたり、遺書を書く白井から「ヤスクニの「ヤス」ってどんな漢字ですか」と聞かれて自分の方が傷ついたように不機嫌な顔をしたり、思えば印象深い場面が多い。

 佐藤允演じる渡辺の方は、中盤まではそんなに目立たずに、班長の頼りになる片腕、って感じなんだけど、最後の晩の独白ですごく印象が変わる。字もろくに覚える暇もないような貧農の出での彼が、インテリの原をどことなく疎んじてた意味や。学徒兵って結局「エリート」だからね。この時代に大学に行ける人たちなんだから。この、現役兵と学徒兵の確執は、多くの映画でも描かれるし(例えば「真空地帯」でも)、実際に元「学徒兵」の知人から聞いたこともあるんだけど、班長が戦死し、明日は死ぬだろうという晩に、互いに腹をさらけだすことで、三人の関係がごくわずかな時間でも、変わるんですね。全体が緊迫しつつも、なにか端々にすごく繊細な感情を感じる映画なんですよ。それは太刀川なり佐藤なりの演技の繊細さ、でもあると思うんです。

 班長については多くは語られないんだけど、バターンの生き残りだっていうのがちらっと話に出てくる。「オレには弾は絶対にあたらねえ」っていいながら、いつもこっそり腰につけたお守りを触るんだけど、その由来とかは出てこない。でもトーチカの外で直撃弾をくらって戦死して、渡辺が帰ってみると、金子ともめたときにもげたのか、トーチカの中にそのお守りが落ちていたりとか。上官にも調子がよくて、「広島に新型爆弾が落ちて全滅」と言われても、「デマに決まってんだろ」とかっこよくふるまってるけど、実はどこか気弱なのかも、というのがそのお守りのエピソードだったりするんだな。

 白井の少年らしいまっすぐさは、自分が学徒兵だっていう原から見ても「こんな子どもに……」と思わせる初々しさ。峯岸兵長の死体を前に、「自分が戦死したら遺骨は日本へ帰してもらえるんでしょうか」と真面目に聞く。で、班長が「大丈夫だから安心しろ」というのに「それだけが心配で」と嬉しそうにするのが痛々しいんだけど、その白井が骨どころか、何も残らないというのがまた。

 それにしても、米軍がトーチカや壕に火炎放射器で攻撃するのは沖縄戦のフィルムで何度も見ていますが、トーチカの中からそれを見るのは(当たり前だけど)初めてで、いや本当にあれは怖ろしい。銃眼から手榴弾が投げ込まれる、それをアワアワしながら投げ返す、機関銃突っ込まれて掃射される、火炎放射器がくる。密室の中で、一箇所しかない外への「穴」から、いきなり火を噴いてくるわけだから。あと跳弾だ。跳弾での死者は出ないんだけど、あの怖さも文章だけだとなかなかピンと来ないものだよな……。

 最後の場面、掘り出した渡辺の遺体を、うっすらと笑みを浮かべながら「渡辺……渡辺……」と呼び続け、撫でさする原が、もうなんともいえないわけですよ。壁にこびりついた肉片ともなんともつかないどろどろの物をさすって「白井……」って。そのある種恍惚としたような境地というかなんというか。よくこんな映画撮ったもんだと思わず思ってしまうという。

 守備隊の方針として「死守」と言われたときに、白井はともかく、班長も金子も原も、これ以上の戦いは無意味だけど、でも「死ね」っていう命令なんだな、っていうのは理解しているわけです。命令である以上、従わないわけにいかない。とにかく死なないためにがんばるしかない。それがわかっているから、ソ連の投降勧告に、原は応じようとする。白井は少年らしいまっすぐさから、降伏はいやだ、と言い、渡辺は「なんだかわからないけど」と言う。「なんだかわからない」のは多分、「情」なんだろうと思うんですけども。「意地」というには静かすぎる。でも、二人ともこの先の戦いの無意味さはわかっているから、原を止める気も咎める気もない。班長がいたらこうはいかなかったろうと思うけども、原がほかの二人のことを考えなければ、原だけは投降できたのかもしれない。投降した先にシベリアが待っていたとしても。

 「生きて虜囚の……」と壁に貼ってあったトーチカとともに、すべてが崩れてしまったんだな。そこから逃れられたかもしれない可能性も共に。

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